■セキュリティ研究164号掲載 「ザ・ボディガード vol.73」
実践救急法・運搬法その1
株式会社リスク・マネ-ジャ-
代表取締役西久保博信
知っておかねばならない運搬法
事故者や急病人が発生した場合は、早期に医師を現場に迎えるのが最もよいのですが、実際には救急車を要請して救急隊員に措置を任せるか、現場に居合わせた人々の手によって、傷病者を安全な場所に運ばなければならない場合が多いのです。
特に交通事故等の場合は、二次災害の危険があるので、救急隊員の到着を待たず、事故者を安全な場所に移動させる必要があります。これを「搬送」と呼んでいますが、この時必要なテクニックなどを含め「運搬法」として身につけておく必要があります。
洋画のシーンに、ウェディングドレスを華やかにまとった花嫁を、花婿がいとも軽々と抱き上げてベットまで運んで行く場面が登場します、あのたくましく颯爽たるシーンは、健常者である花嫁が花婿の首に巻きつけた腕に、体重を分散させているところにポイントがあるのです。全身の力が弛緩した意識不明の状態だったら、いかに筋骨逞しい欧米人だって、ああ格好良くいかないでしょう。
患者を動かしたり、運んだりすることは、どんな場合にもある程度の危険をともないます。どんなに慎重に運んでも、必ず動揺を与えることになるからです。また、運搬を誤ったため悪い結果になることが多いので、正しい方法で運搬することが必要です。
急いで運ばなければならない場合は、わりあいに少ないのです。むしろ時間がかかっても、十分な手当てしてから、静かに運んだほうが結果としてよい場合が多いことを知っておくべき
です。
運搬時の一般的注意
(1) できるだけ動揺を与えない方法を選択すること。
(2) 複数で運搬する場合には、これを指揮するリーダーを必ず選抜すること。
(3) 運搬が終わるまで患者の容態観察を続けること(リーダー)
準備
運搬に先だって、次の諸事項をチエックしましょう。
(1) 運搬に対する応急処置は完了したか。
(2) 患者をどんな体位で運ぶか。
(3) 毛布などによる保温は適切か。
(4) 担架(応用担架)は準備されているか。
(5) 人手と手順、役割分担は良いか。
(6) 運搬経路の選定、安全は良いか
運搬に至るまでの寝かせ方
1.寝かせ方
原則として傷病者が最も楽だと希望する姿勢をとらせます。
*寝かせた時の全般的な注意
傷病者を寝かせて救急車などを待つ間、上着のボタン、ネクタイ、バンドなど、衣服の緊迫部分をゆるめてやります。と同時に、寒くならないように適当な保温にも注意します。
●意識のない時、呼吸活動が弱い時。
(写真1)
傷病者の左側、折膝姿勢から傷病者の右手を斜め四十五度くらいに引き出し、次いで左手肘関節の少し上を持って横向きに引き起こします。そのとき、手の甲をアゴの下にいれ、頭を後屈させて気道を確保し、顔を下向きにして吐いたものが出やすい姿勢にします。この場合、右手とくの字型の左膝がつっかえとなって身体の安定をはかります。
[注意点・ポイント]意識のない者、虚脱状態の傷病者は全く抵抗がありません。したがって、胸を強く押せば肋骨が簡単に折れますし、手を強く引っ張れば関節が抜けてしまいます。だから静かに、ていねいに、行うことが大切です。頭部後屈で気道が開き、呼吸活動が楽になるのです(このとき心臓の位置に注目)(写真2)
下半身、特に腰から足を高くして寝かせます(椅子などの活用)
[注意点・ポイント]下半身を高くして寝かせるのは血行を促すためで、衣服をゆるめ、身体を楽にしてやります。頭部に枕は不要です(前屈させますから)。(写真3)
下肢に丸めた毛布、布団を入れて膝を屈曲させ、腹部にたるみをもたせて緊張をやわらげてやります。(写真4)
なが机、戸板など、できるだけ下のしっかりした、たわまない堅い板の上に寝かせます。
[注意点・ポイント]脊椎骨折、または腰を強く打っている時は担架による運搬は駄目です。たわみや、くぼみができますので、脊髄が傷つくことがあるからです。この場合、堅い板に仰向けに寝かせ、できれば四人以上で静かにゆっくり運搬します。(写真5)
もたれかかるような横向きの姿勢で、上半身を高くし、頭を後方に反らせて呼吸がしやすいようにしてやります。
運搬方法
1.一人運搬
脊椎に膝をあて、静かに上体を起こします。両わきの下から両手を入れて、事故者の前腕を順手でつかみ、事故者の臀部を床から少し浮かせて引っ張ります(両腕をつかんで引いても良い)。(写真6)
[注意点・ポイント]意識がなかったり、自力で動けない事故者を、とりあえず危険な場所(火災現場、交通事故発生現場など)から安全な場所へ、緊急に移動させるときなどに使われます。引きずっていくので、足場の悪い場所や距離の長い場所移動には不適です。(写真7)
足を負傷した人、酩酊して足をとられている人などの歩行を助けます。
[注意点・ポイント]二人三脚の要領で、負傷した足が内側になるように肩を貸し、手首と腰に回した手で腰を密着させ、ややつり上げぎみに歩かせます(ただし、骨折している場合は不可です)。(写真8)
これまで事故者を支えながら歩かせていましたが、自力歩行が困難になった時、また、ベットに寝ている病人をとっさに移動させる場合などに用います。まず一方の手を首にかけ、他方の手を腰に回します。事故者を引きつけたまま、腰をくの字に曲げて事故者の前にいれます。事故者の腰にあった手を頬にずらし、手のひらで耳を保護するように頭を支え、手首をつかんでいた手を事故者の膝の後ろに回して、事故者を腰に巻きつけるようにして運びます。
[注意点・ポイント]頭部が下がりすぎないよう、腰を曲げすぎないよう、上半身を起こして運びます。近距離移動のときのみに有効です。(写真9)
歩行困難になった事故者の手首をとり、他方の手を両股の間から入れて手前の足を、また、自分の首の付け根を事故者のソケイ部につけ、手首を引っ張りながら、つるベ井戸の原理で持ち上げます。このとき、一方の手が空きますので、階段の手摺につかまったり、ドアの開閉操作、あるいは荷物を持つことができます。
[注意点・ポイント]腹部に損傷を負っている事故者、妊婦には使えません。
腰を引いた姿勢で持ち上げると腰を痛めます。片手が空くことと、運搬姿勢が安定しているため、階段の登り降りや長距離の運搬に適します。(写真10)
下肢を負傷し、歩行困難になった事故者を背負う時、事故者のクロスした両手首を、足を抱えた両手で握り、腰よりも高い位置に背負います(おんぶ)クロスが無理ならリュックサック型でもよいのです。
[注意点・ポイント]一人運搬法の中で負荷が最も少なくて済み、長時間、長距離、足場の悪い場所などでも使えます。背負う(おんぶ)位置がずり下がると重くなります。骨折など腕を怪我している者には使えません。(写真11)
意識不明、あるいは動けない事故者を緊急に移動させなければならない、というような場合にもちいます。眠ってしまった赤ちゃんが大変重く感じるように、意識のない事故者は相当に重いことを覚悟してください。
[注意点・ポイント]一人で、意識のない負傷者を運ぶときに適しますが、骨折のある負傷者には用いないことです。事故者の腹の下にいかに小さく潜り込むか。両手、両足を使って、四つん這いの格好から片膝を立てて立ち上がるまでの、事故者の重心を背中(腰より上部)にもってくることがポイントです。
実践救急法・運搬法その2 に続く
